大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和43年(あ)2121号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

弁護人吉原稔の上告趣意中判例違反をいう点は、引用の判例は、いずれも本件と事案を異にし適切な判例とはいえず、その余は、事実誤認、単なる法令違反の主張であって、すべて適法な上告理由にあたらない。

しかしながら、職権をもって調査すると、原判決が、交通整理の行なわれていない本件交差点は、被告人の進路の左方に対する見通しが良好でないから、該交差点に進入するに際し、徐行して安全を確認しつつ進行しなければならないことは、道路交通法四二条の規定に照らしても明白なところであるとした判断は、これをただちに是認し難いものと考える。すなわち右のような交差点であっても、その車両の進行している道路が、同法三六条により優先道路の指定を受けているとき、またはその幅員が明らかに広いため、同条により優先通行権の認められているときは、ただちに停止することができるような速度(同法二条二〇号)にまで減速する義務があるとは解し難い(昭和四二年(あ)第二一一号同四三年七月一六日第三小法廷判決刑集二二巻七号八一三頁、昭和四二年(あ)第二八八五号同四三年一一月一五日第二小法廷判決、昭和四三年(あ)第二一六二号同四四年五月二日第二小法廷判決参照)。

これを本件についてみると、記録によれば、被告人の進行していた道路は、幅員約六・一〇米の舗装された真直ぐの道路であるのに対し、これに交差する被告人から見て左方の道路は、幅員約四・三五米の簡易舗装の道路でしかも曲りくねった幅員も必ずしも一定しない道路であることがうかがわれるのである。してみると、これらの状況からみて、被告人の進路のほうが明らかに広いと認められることにより、被告人の本件交差点における同法四二条の徐行義務が免除される可能性が存しないわけではない。

しかるに、この関係の事実を確定することなく、交通整理の行なわれていない交差点で左方の見とおしのきかないものについては、当然に徐行義務があるとし、第一審判決を維持した原判決には、法令の解釈を誤った結果審理を尽くさなかった違法があり、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。

よって刑訴法四一一条一号により、原判決を破棄し、さらに審理を尽くさせるため、同法四一三条本文により本件を原裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例